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仕事に対して処遇するには(4)

仕事に対して処遇するには(4

 

「仕事」に対して処遇するということは、「仕事」を起点に処遇のルールを決めて実施することであって、人ありきで処遇を考えて決めることはあってはなりません。これを給与について言えば、年齢・学歴・採用区分・能力・資格などの属人的な要素で給与を定めようとするのではなく、どのような仕事をするのかという一点に絞って給与を決めることになります。このことをもって職務給と呼ぶのであれば、「仕事」に対して処遇する際の給与が職務給になるのは必然です。

「仕事」をジョブディスクリプション(職務記述書)の形で明確化し、社内外で公募するとすれば、その募集時に給与を含めて雇用条件を詳細に取り決めなければなりません。改めて言うまでもないことでしょう。

特に「仕事」の本質や特性の上から必要となる事項については、他の「仕事」と同じ就業規則などで一律に定められるものではないはずですから、別途雇用条件を文書化したものが不可欠です。一般に就業規則で定める事項であっても、今募集しているこの「仕事」に特化した条件については、詳細を詰めるべきでしょう。

例えば、勤務地、通勤手段、勤務体制(オフィス勤務、外勤・出張、在宅勤務、リモートワークなど)、就労場所の物理的な環境(危険度や暑さ・寒さなど)、労働時間及び労働時間管理、服装などの制限(制服着用義務・制服管理など)、業務上必要な器具や資材などの購入・管理の自由度(購入の権限)などが挙げられます。管理職や経営幹部となれば、専用個室・秘書・社有車の使用・出張時に適用される移動手段や宿泊施設のグレードなども、「仕事」上の必要性から事前に定めておくべきものです。

 

通常、人事上の処遇といえば、報奨・昇給・昇進・配置転換(異動)・出向転籍・休職・退職・解雇といったものが頭に浮かびます。これらのうち、昇進及び配置転換(異動)や出向転籍は、「仕事」の内容が変わってしまうので、本人がそのことを理解し同意しない限りは、組織の都合だけでは実施できない点に留意すべきです。それらに加えて、福利厚生制度や各種のフリンジベネフィット、教育研修プログラムへの機会提供なども処遇の一部を構成します。

さて、報奨というと、基本給与・諸手当・賞与・退職金などの現金で支給されるものに、株式連動型の報酬制度のように現金以外の経済的な利益につながるものが加わります。

基本給与のように固定的な給与は、相場でその金額が一定の幅(レンジ)をもって決まります。ここで相場というのは、一般的には地域的につながりのある同業他社の間で把握することが可能な実在者の給与及び採用時に提示される給与のことです。

但し、必ずしも地域的なつながりや同業者である必要はありません。というのは、この「仕事」をこれから担当しようとする人は、ジョブディスクリプション(職務記述書)で提示されている「仕事」で求められる実績を挙げることができる自信を、採用する側に納得させることができればよいのです。同じ地域の同じ業界での経験が必須というケースのほうが稀で、通常は別の地域で他業界での経験でも構わないというものです。若しくは、全く社会人の経験がなくても構わないとか、そもそも提示している「仕事」の経験者などそうそういないはずと、採用する側が考えている場合も珍しくはありません。

そうであれば、給与の相場も厳密に捉える必要はなく、採用しようとする人材層が現に属しているであろう業界や職種における相場と比べて、同じ程度か多少なりとも高い水準であればよいのです。また、給与水準では同程度であっても、他の条件(業績によって変動する給与や賞与、フリンジベネフィットなど)で相対的に高いものを提示することでも、処遇上の競争力をもつことは十分に可能です。

ちなみに、手当という概念は原則的にないはずです。職務に関連する手当は仕事を定義したのだから基本給に全て含まれているからです。外勤であろうと危険性の高い職務であろうと、〇〇という仕事をするという点では同じです。採用できるかどうかは、その仕事に見合った報酬を支払うかどうか(社外相場)で決まるので、基本給与に全て含まれていなければ「仕事」に対して処遇することにはなりません。

同様に、家族(扶養)手当とか住宅手当といったものも、「仕事」即ちジョブディスクリプション(職務記述書)で家族状況や居住状況が定義されている場合以外は、「仕事」とは無関係な要素ですから、処遇を考える際に検討すべき要素とはなり得ません。家族や住宅に関する状況が「仕事」を担当する人を募集・採用する上で特段考慮すべき事情があるのであれば、基本給与を個別に高く提示するか、または金銭的な手当ではなく介護サービスや社宅などのフリンジベネフィットのプログラムで提供するのか、一律の手当制度ではない方法で対応すべきです。通勤や移動(出張など)に関するものも同様です。

また、公的資格を有することが「仕事」をするのに法的に必要な場合(自動車の運転が必須の「仕事」に従事する際の運転免許、病院などで医療行為を行う「仕事」に就く際の医師免許、法律事務所で弁護士業務を行う際の弁護士資格、監査法人などで上場会社の監査業務に従事する際の公認会計士資格など)を除くと、一般に能力やスキルの有無を公的認証などで評価する必要はありません。例えば、プログラミングを行う「仕事」に就くのであれば、使用する言語や対象となるシステムについて実際にプログラミングを行うという、その「仕事」に対する実地テストを行えばよいのです。実地テストをクリアして、その「仕事」に就く以上、その後の実績や成果を評価すればよいのです。

 報酬ということで言えば、もっと考えなければならないのは、固定的な報酬と変動的な報酬のバランスであったり、変動的な報酬の支給形態についてであったりします。

固定的な報酬というのは、基本給与や基礎的な年俸のように、事前に定められた一定の金額が現金で支給されるものです。「仕事」に対して支給されるということを正確に言うと、固定的な報酬は「仕事」への期待に対して支払うものです。故に、事前に金額や支給時期を決めて、その取り決めに従って当該期間中は支払うことになります。

変動的な報酬というのは、組織的な業績や個人の業績評価などの結果に応じて支給額が変わるものを言います。時には支給されないこともあります。代表的なのは、業績賞与や(対象者全員に一律に権利が付与されるのではなく一定の業績要件などで権利付与が決められる)株式連動型の報奨プログラムなどです。残業代なども変動的な報酬ですが、残業代は事前に定めたものよりも超過した労働時間に対して支払われる報酬なので、変動的ではありますが、業績による変動ではない点に留意しましょう。

特に経営幹部(CXO相当)や上級管理職として「仕事」を任されている人々を対象に支給される変動的な報酬については、報酬全体に占める割合が高いことが予想できます。反対に現場に近い「仕事」ほど、歩合制の仕事を除けば一般的には変動的な報酬の割合は低くなり、業績賞与と言っても年収全体に占める変動幅は10%にも達さないでしょう。むしろ、残業代のように業務の繁閑のほうが報酬の変動に直結するかもしれません。

ちなみに、短期的な業績の変動に対する報奨というのは、まずは業績賞与で対応し、何回か続いて良い業績を上げることができたのであれば、基本給与の増額とか上位のポジションへの昇進が考えられます。反対に期待に達しないのであれば、その程度に応じて、業績賞与の減額や不支給からポジションの解任・(業績不振による)解雇に至るまでの処遇が行われるでしょう。

長期的な業績の変動については、その期間に対応して長期的に権利行使が段階的に進む形態の株式連動型の報酬プログラムが求められます。若しくは退職金制度自体が、長期的な業績への貢献に応じて変動する要素が大となるように設計されるでしょう。こうした報奨制度のポイントは、一定レベル以上の役職者や役員に一律に支給するのではなく、それぞれが果たすべき職責(=「仕事」)やその結果(長期的な業績)に応じて個別に定めることです。こうしたことは社外取締役を中心とした役員報酬委員会などで検討し決定することが要請されます。

 

処遇を検討し決定するのは採用時だけではありません。実際に「仕事」をした後に、次年度の処遇を決めることも重要ですし、現実に数多く決定しなければならなりません。

ここで、「仕事」をした事後に評価で見るべきは、「仕事」の結果、即ち業績評価に他なりません。その結果がジョブディスクリプション(職務記述書)及びそれを更に具体化した業績目標などを基準として見た場合に、期待通りであれば一定の昇給が見込まれます。この昇給は、組織全体や所属する事業部門の業績及び労働市場における給与水準の動向などによって、予め定められている一定の幅(レンジ)の中において金額または率で決まります。

もし、期待を大きく上回る業績を挙げたと認められるのであれば、昇給幅も大きく業績賞与なども多くもらえることでしょう。組織によっては、株式連動型の報酬制度の適用対象者となったり、より上位のポジションに就くためのトレーニングを受けたり、自らチャレンジしたい「仕事」に異動する機会を提供されたりして、昇給だけではなくキャリアアップも実現できるかもしれません。

しかし、業績評価の結果、担当させた「仕事」で組織が求める結果が生み出せなかったのであれば、退職させるのが筋です。できますといって「仕事」をやったのにできなかったわけですから、特に経営幹部や上級管理職は解任・解雇されても文句は言えません。一般の管理職や現場の担当者レベルの「仕事」に就いているのであれば、現実的には、求める結果が何なのか再確認した後に再度仕事に取り組んでみて、業績評価を行うことになるでしょう。いわゆるPIP(業績改善計画)を行うことになります。

「仕事」を基軸として処遇を決めるということは、このように「仕事」がちゃんとできたかどうかで、処遇に極めて大きな差がつくということです。ここをきちんと適切に行わないと、「仕事」の重さ・大変さ・困難さに挑戦して結果を出した人ほど、失望して組織を去ることになります。注意すべきは、結果を出した人のほうが失望しやすいことです。結果を出せなかった人は、解雇されたり解任されたりせずに相変わらず同じポジションで在職することができたとすれば、敢えて他社に転職するというリスクをとることはせずに現状に甘んじることで組織にしがみつくことが十分に予想できます。

もちろん、この他に事業戦略の変更などにより「仕事」がなくなることもあります。その場合は、早期退職優遇制度や整理解雇といった手法により、強制的に退職させられることになりますが、そうした可能性は入社時から雇用条件のなかに一文でも明記しておくべきでしょう。

 

(5)に続く

 

作成・編集:人事戦略チーム(2025327日更新)