ミンツバーグの組織論(1

 

(1)組織の定義

 

 今回ご紹介するのはカナダの経営学者ヘンリー・ミンツバーグが半世紀以上にわたって研究してきた「組織」についての著作です。

 

ミンツバーグの組織論

(ヘンリー・ミンツバーグ著、池村千秋訳、ダイヤモンド社より20246月発行)

 

紹介者が就職した1980年代半ばでは、組織についてのまとまった書籍が案外見当たらず、本書の元となった1979年に刊行されたものなどを参考に学んだ記憶があります。

本書は1979年に刊行されたものの簡約版(1983年刊行)を改訂したものです。改訂版とは言え、近年の組織のありかたや組織デザイン論の動向などにも論及しています。書名からは、学術的な専門書を思われるかもしれませんが、語り口は平易で一般の読者向けに書かれています。本書の中で最も堅苦しい表現と思われる箇所でも、次のような表現に留まります。

 

組織とは、共通の使命(ミッション)を追求するために組み立てられた集団的行動と定義できる。これを7歳児(ともっと年長の人たち)のために少し噛み砕いて表現すると、大勢の人たちが正式な取り決めの下、なにかを達成しようとするのが組織だと言える。そして、組織の構造とは、組織のメンバーが使命の達成に向けた行動を一緒に取るために設計された、人と人の関係のパターンと定義できる。(本書15ページより)

 

さて、著者は組織について論じるに当たって、まずはプレーヤーとその相互関係を4種類の基本的な類型から始めます。そして、組織を意思決定と戦略立案とマネジメントの場とするならば、アート・クラフト・サイエンスの3つの要素から組織が形成されていると説きます。更に組織デザインのメカニズムと要素について考察していきます。

次に、組織の基本的な4形態を説明します。パーソナル型、プログラム型、プロフェッショナル型、プロジェクト型、それぞれの基本構造・環境と種類・長所と短所などを詳説します。この4つの形態をきちんと頭に入れておくと、自社や自部門がどのような特徴があるのか、身近に評価するのに役立つでしょう。

続いて、基本的な4形態に作用する7つの力を提示し、基本的な4形態から発展した3形態(事業部型、コミュニティシップ型、政治アリーナ型)について説明します。

生まれた組織は、ひとつの方向に成長・拡大していくとは限りません。基本的な形態を同時にいくつも纏うハイブリッド型の組織になることもあれば、時には、暴走したり、縮小したり、死を迎えたりすることもあります。そうした組織のライフサイクルと形態の変遷についても論じます。

最後に、組織と外界との境界について考察します。特に現代では組織から外へ、外から組織へと流動的な形態も多く見られるようになっています。また、行動としての組織デザインを通じて、マネジメントとして実際に組織をデザインしていくことにも言及しています。

 

文章作成:QMS代表 井田修(2024911日更新)

 

 

ミンツバーグの組織論(2

 

(2)組織デザインのメカニズムと基本的な要素

 

本書では、始めにプレーヤーとその相互関係を4種類の基本的な類型から論じます。組織を意思決定と戦略立案とマネジメントの場とするならば、アート・クラフト・サイエンスの3つの要素からマネジメントのスタイルが形成されていることを示した上で、組織デザインのメカニズムと要素について考察します。

 

著者によると、組織における主なプレーヤーというのは、オペレーター・サポートスタッフ・アナリスト・マネージャーという組織内部の構成要員に加えて、(組織のもつ)文化やインフルエンサーも考察すべき対象(注1)となります。

本書では、その相互関係を4種類の基本的な類型で説明します。すなわち、「チェーン」「ハブ」「ウェブ」「セット」です。

「チェーン」というのは、業務が直線的に進むもので、自動車の組み立てラインとかサプライチェーンやバリューチェーンといった表現からイメージされるように、次から次へと仕事が渡ってゆくものです。図で描けば、矢印が一方向に向いて並びます。

「ハブ」は、調整が行われる中心がはっきりしており、さまざまな活動の焦点が確立されているものです。その中心で仕事が全て(または大半)処理されます。図で示せば、中心と外側の間に数多くの双方向の矢印が描かれます。イメージとしては、ハブ空港に相当するのが「ハブ」の中心にいるマネージャーで、他のプレーヤーはハブ空港に離着陸する航空機に相当します。実際の作業は各プレーヤーが担当するのですが、プレーヤーへの指示・監督やプレーヤー間の調整はマネージャーが一手に引き受けます。

「ウェブ」は、特定の順序や中心がないまま、仕事が自由自在に動きながら処理されます。人や情報、モノやカネがあちらこちらに動くので、矢印の方向や長さがさまざまで、矢印の受け手も出し手もランダムに広がるイメージです。蜘蛛の巣のような同心円に近いものをイメージするよりも、もっとランダムに仕事がやりとりされるものです。

「セット」は、構成するパーツ(ユニットと呼ぶ方がイメージしやすいかもしれません)が緩やかに組み合わされていても、相互に独立しているものです。小売りや外食などの店舗がひとつのセットとすれば、店舗網はセットを寄せ集めたものと言えます。

実際の組織は次のように見立てることができそうです。

流れ作業で物を製造するのはチェーン型の組織で、一人ひとりの作業者はオペレーターとして作業マニュアルなどに従って仕事を処理します。

作業マニュアルを策定するのは、アナリストの仕事です。但し、アナリストはこの組織に属しているとは限らず、コンサルタントや本社の生産管理スタッフかもしれません。

アナリストが属する組織はセット型の組織かもしれません。現行の製造方法を計測・作業分析を行う人、計測結果をデータ処理する人、作業方法を組み立てる人、マニュアルを書く人、プロジェクトの進行管理や経費管理を担当する人などから構成される作業標準策定チームは、作業標準策定やマニュアル作成に必要なスキルをもった人々から構成されるセットです。

オペレーターやアナリストが使うIT機器を管理するのは、サポートスタッフです。同様に、作業場所を物理的に管理したり作業環境を整えたり、給与を振り込んだり経費を精算したり福利厚生プログラムを用意したりするのもサポートスタッフです。

マネージャーは仕事量と納期を示して、作業を監督します。品質管理は「ハブ」かもしれません。一定の作業が終わったラインの責任者(ラインマネージャー)が作業結果を取りまとめて品質チェックの部署に持ってきて検査を受けて出荷するとすれば、品質チェックの場を中心として放射状に展開するのが一つの方法です。

紹介者は、マネージャーがハブとして実際に機能している現場を何回か目にしたことがあります。ひとつは、アパレルで在庫調整を行うマネージャーです。これはマーチャンタイザーと呼ばれていました。毎週月曜日の朝になると、前日までに販売された商品を残っている商品を店舗ごとに集計して、個々の商品をどの店に振り向けるか、今週入荷される商品も含めて判断し、店舗や物流センターに指示していました。もうひとつは、業績不振によりリストラに迫られている企業です。親会社から派遣された新任役員であったり、その企業を買収したファンドから送り込まれたCEOであったり、立場はさまざまですが、こうしたターンアラウンド・マネージャーの多くは、社長室に籠ることなくリストラチームのウォールーム(リストラの実務を取り仕切る会議室など)で議論と意思決定の中心に位置し、文字通りハブとして機能している例が多いのです。

 

次に著者は、組織を意思決定と戦略立案とマネジメントの場とするならば、アート・クラフト・サイエンスの3つの要素からマネジメントのスタイルが決定されることに言及します(注2)。

アートというのは、見ることに重きを置くスタイルです。クラフトは、行動することから出発することが多いスタイルで、サイエンスは、まず考えるスタイルです。言い換えると、何かを意思決定する際に、観察からスタートし直感を重視するのがアート、試しに動いてみて経験を積んでいくのがクラフト、データを収集・分析してロジックを組み立てるのがサイエンスということです。

現実の意思決定はこれらがミックスしたものですが、マネージャー自身がどのようなスタイルかを知っておくことが重要です。例えば戦略形成において、マネージャーの意思決定スタイルと戦略形成の型がある程度は合わないと、戦略形成が進まなくなるでしょう。

本書では、戦略形成を大きく4つの類型に分けて考察しています。つまり、「計画モデル」「構想モデル」「冒険モデル」「学習モデル」です。

「計画モデル」では、上級幹部や専門スタッフが市場におけるポジショニングなどの戦略を分析的に立案し、他は実行する役割に徹します。「構想モデル」は、創業者や経営トップなどのビジョンをもとにパースペクティブとしての戦略が形成され計画的にポジショニングを定めていきます。「冒険モデル」は、数多くの関係者がさまざまなポジショニングを提唱するものです。「学習モデル」は、まず行動するところからスタートし、試行錯誤や組織的学習によりポジショニングとパースペクティブが形成されていきます。

ここから示唆されるのは、マネージャーの意思決定のスタイルと戦略形成と環境変化との関係についてです。

つまり、マネージャーがアート重視であれば「構想モデル」との親和性がありますが、多くのマネージャーがアートに偏り過ぎると「冒険モデル」となりそうです。環境変化が激しいのであれば、「冒険モデル」でどれかひとつでも成功すればよいという発想も成り立ちそうですが、そうした環境でないのなら「構想モデル」のほうが適しているように思われます。

また、マネージャーがクラフト志向を強くもつのであれば、「学習モデル」が推奨されそうです。マネージャーがサイエンス志向に傾くのであれば、「計画モデル」が実施されがちでしょう。いずれも安定的な事業環境であれば、戦略の有効性が計算できるかもしれませんが、急激な環境変化に対してはスピードに欠けるきらいはあります。

 

更に本書は、マネジメントには情報・人間・行動の3つの次元があることを説きます。情報のマネジメントとは、周囲の世界とコミュニケーションをとるという組織外部との情報流通の面と部署内をコントロールするという組織内部の情報流通の二つの面があります。人間のマネジメントにも、内部の人々を導くというリーダーシップの面と、組織を代表して外部の人々と関わるという対外コミュニケーションの面があります。行動のマネジメントも同様で、組織内部で物事を実行するという面と外部と取引を行う面があります。

ここから、マネージャーのコミュニケーションを考える上で、情報・人間・行動の3次元それぞれに、組織外部との関係と組織内部でのやりとりのふたつのシーンがあることを明確に意識して使い分ける必要があると示唆されます。現実のマネージャーの多くは、自分が得意と思っている次元・シーンでのコミュニケーションに偏っているのではないかと思われるのは、紹介者だけではないでしょう。組織の類型の違いによっても、これらのコミュニケーションは留意すべき点が異なってくるはずです。

 

次に、組織デザインのメカニズムについて考察していきます。

最初に考察されるのは、調整のメカニズムです。これは、相互の調整、直接的な監督、業務の標準化、成果の標準化、スキルの標準化、規範の標準化、という6つの類型に分かれます。

相互の調整は、必ずしもマネージャーを介するとは限らず、当事者同士が随時、互いにコミュニケーションをとることで調整していくことです。長年固定的なメンバーで熟練したスキルをもつ従業員同士が阿吽の呼吸で作業を進める職人芸の世界では、スキルや規範が標準化されたところに相互の調整が暗黙裡に行われています。組織の類型に即して言えば、この調整メカニズムは特にウェブ型の組織に求められるものです。仕事のプロセスや結果は、相互の調整の如何にかかっているため、一般にはかなりのバラつきが出るのではないかと危惧されます。

直接的な監督は、マネージャーが当事者に指示することでメンバー間の調整を行うものです。マネージャーがハブとなって機能するので、組織形態はピラミッド型で仕事はチェーンのように流れていくとしても、ハブ型の組織運用が求められます。マネージャーの質によって、仕事の成果には大きな違いが出そうです。

業務の標準化は、ルールやマニュアルなどが整備されることで、事前に業務内容を事細かく決定しておくものです。あまり高度なスキルを要しないオペレーターばかりで運営される組織では必須のメカニズムです。組織のマネージャーの手腕よりも、アナリストの能力によって成果が左右されるでしょう。著者は、ルールが徹底されていて現場の実務がほとんど標準化されている組織を「官僚組織」と呼ぶと断言していますが、個別の事情を酌まず杓子定規に物事を処理するという意味であれば、正に官僚的と言えるでしょう。

成果の標準化は、業務そのものを標準化できない場合に行われます。個々の作業の進め方はオペレーターに委ねられますが、成果(目標)についてはマネージャーが事前に指定することで共通のゴールを認識することが可能となります。タクシーを運転する場合を例に、成果(目的地に合理的なルートで安全に到着すること)と業務(自動車を運転する行為)の違いを理解できるように説明しています。

スキルの標準化は、事前に研修(練習)やシミュレーション(稽古や予行演習)などを通じて、それぞれの持ち場や動き方を通じて、誰が何を行うか、自動的に調整されるようになっているものです。紹介者は、テーマパーク等のエンターティンメントの運営やハイグレードな宿泊施設やレストランなどを具体例として想起しました。

規範の標準化は、文字通り、規範(あるいは価値観)を標準化することで、その信念に向けて行動することでメンバー同士の行動が調整されるものです。ルールやマニュアルの強制でもなく、学習による習得でもなく、教化とか社会化のプロセスを通じて行われる調整です。これは、伝説となるサービスといったエピソードの背景にあるものかもしれません。スキルの標準化と組み合わせて進めることで、より確実に成果を挙げることができるでしょう。また、成果の標準化のベースに規範の標準化があれば、成果の意味を共有することで可能となります。

マネジメントとは、これら6種類の調整メカニズムを活用することです。特に現代は、開かれたチーム、タスクフォース、ネットワーク組織など、直接的な監督や業務の標準化といった伝統的によく見られるメカニズムだけではマネジメントしきれない組織がありふれたものとして普及しているので、適切な調整メカニズムをマネージャーが選択して実践することが肝要です。

紹介者としては、これらの指摘に加えて、リモートワークにおける調整や静かな退職に見られるエンゲージメントの低い従業員のマネジメントなどについても、改めて効果的な調整メカニズムが何なのか、しっかりと検討する必要に迫られていると指摘できます。特に規範の標準化は重視し過ぎることはないと言えるでしょう。パーパスやミッションの重要性や必要性が説かれる一因でもあります。

 

著者によれば、組織デザインの要素というのは、役職・部署・部署間調整のことをいいます。

まず、役職(マネジメントポジション)の設計についてですが、3ステップで進めます。つまり、職務範囲を定める、正式化を進めて自由裁量に枠を嵌める、その役職に求めるスキルを学習させる(研修と教化)、というステップです。

実際の組織では、職務範囲の定義や正式化は職務分掌規程やマネージャーの職務マニュアルなどで明確になっていると思われます(日本の組織ではむしろ不文律のほうが実効性の高いルールかもしれません)が、役職別の研修と教化はOJTや通り一遍の役員研修や管理者研修で事が足りていると誤解しているケースが多いと紹介者は推測します。

次に部署のくくり方(グルーピング)を検討します。現実の組織は、いくつかの単位組織だけで成り立っているわけではありません。複数の単位組織を束ねて上級の組織を設け、それらをいくつか更に束ねてより上級の役職で監督するといった、組織構造が必要となります。

ここで注意すべきは、サイロとスラブです。サイロは、いわゆる蛸壺状態の組織の問題状況で、縦方向の直接的な監督が可能な換わりに横方向(部門間)の情報の流れや調整が容易に進まない状況をいいます。スラブは、同じ階層の役職者の間では情報が流れても、階層が違うと情報がうまく流れず、調整が進まない状況のことです。特に、上位階層が物理的に別の階に存在するとより悪化して見られることが多いようです。業務の内容、実行方法、求める成果(の共通性)、場所と時間、対象(の違い)などを、部署の設計に当たって考慮しなければなりません。

これらに加えて、部署の規模(部下の人数)や分権化の程度も重要です。特に分権化は調整のメカニズムに影響を及ぼし、最も進めると「相互の調整」になり、まったく進めないと「直接の監督」となります。調整のメカニズムをどうするかということは分権化(または集権化)をどこまで進めるのかということを考えることに他なりません。

第三の要素である部署間調整は、主に計画とコントロール及び部門間のつながり方に関するものです。計画とコントロールは、成果の標準化や相互の調整といったメカニズムを重視することになりそうです。目標の共有化、予算やシステムのありかたも検討を要します。

部門間のつながり方については、サイロやスラブといった問題に陥らないように、事前にリエゾン(部署間の連絡係、橋渡し役)を置くとかマトリクス組織を導入して、複数の上級マネジメントの監督下に置くといった方法が検討されることが多いでしょう。

 

こうした一般論としての組織デザインについて考察することとともに、組織デザインの現実として、文脈を踏まえた組織設計の重要性についても言及します。文脈というのは、組織の歴史、技術的システム、環境変化、権力のありかたについて考察を求めるものです。

歴史が長く規模が大きい組織ほど、組織における行動は正式な性格を帯び、組織構造は入り組んだものになり、役職と部署の専門分化が進み、管理体制が強化されがちです。また、業界業種の歴史が長いほど、組織の同質化が進み、正式化された組織構造をもちがちという指摘もあります。

技術的システムとは成果物を生み出すために事業活動で用いる手立てのことで、テクノロジーそのものを意味するわけではありません。業務が技術的システムによってコントロールされるほど、組織の管理上の構造も正式化されます。技術的システムが複雑なほど、サポートスタッフの陣容が手厚くなり、専門性が高くなり、影響力も大きくなります。業務コア(現場業務の中核)の自動化が進むほど、組織構造が官僚主義的なものから有機的なものに変容するという本書の記述にも十分に留意しておくべきです。

環境の影響としては、環境変化が激しいほど、組織構造は有機的なものになることと、環境の複雑性が高いほど、組織構造の分権化が進むことを指摘しています。ということは、現代は環境変化の激しさと複雑性はともに増しているはずですから、組織構造はより有機的で分権化されたものになるであろうと示唆されています。

権力のありかたも組織構造に大きく影響します。例えば、組織が外部からコントロールされているほど、組織構造の集権化と正式化が進むとか、複数の部外者の間で権力が分散している組織では、内部対立が生まれやすい、流行も組織構造に影響を及ぼす、といった一連の指摘は、国有化された企業とか複数のファンドに買収された企業に起こったエピソードを思い出すだけでも納得させられるものがあります。

 

以上、「チェーン「「ハブ」「ウェブ」「セット」というプレーヤーとその相互関係の基本的な類型を説明し、アート・クラフト・サイエンスの3つの要素からマネジメントのスタイルが形成されていることを示して、組織デザインのメカニズム(相互の調整、直接的な監督、業務の標準化、成果の標準化、スキルの標準化、規範の標準化)とその要素(役職、部署、部署間調整及び組織の文脈)について解説しました。

 

【注1

自明のことかもしれませんが、本書の3235ページの記述をもとに、念のためにそれぞれのプレーヤーについて説明しておきます。

オペレーターは、製品の製造、サービスの提供、製造やサービスの直接的な支援など、組織の基本的な現場業務を担います。いわゆる現場のプレーヤーです。

サポートスタッフは、現場業務を間接的に支援します。人事、経理、情報システム、法務、総務、施設管理など、いわゆる間接部門で仕事をする人たちです。

アナリストは、分析を行うことによりその組織における活動をコントロールし、調整します。計画立案、スケジューリング、予算策定、結果の測定などを行います。いわゆる企画系の部署(事業企画、営業企画、生産企画など)や業務管理などが該当します。

マネージャーは、特定の部署または組織全体に対して、指揮・命令・監督を行います。組織図の上では、権限の階層が形づくられますが、そのひとつひとつの階層にマネージャーが存在します。組織全体となると、通常はCEOに代表されるCXOと称される執行役員層がトップのマネージャーとなります。マネージャーの名称は、業種業界や組織の種類のよって異なります。

(組織のもつ)文化というのは、その組織に浸透している信念の体系です。組織のすべてのプレーヤーに共有される枠組みを提供します。職種横断的に共有されているものもあれば、言語や地域によって共有されているものもあります。共有される価値観として明示的に標榜されていることも多いのですが、必ず目に見える形があるとは限りません。

インフルエンサーは、組織の外から組織の行動に影響を及ぼそうとする別の組織です。営利企業にとっては投資家や株主、労働組合、規制当局などだけでなく、NGONPO及び国際機関や地域社会などさまざまなものがあります。その中でより直接的なものをステークホルダーと呼ぶこともあります。

 

【注2

スタイルの特徴を判別するには、本書46ページにある3つの言葉からひとつを選ぶチェックリストを用います。ちなみに紹介者はa-0,c-7,s-3でした。一般的にマネージャーにアート・クラフト・サイエンスのバランスが求められるとすれば、マネージャーには向いていないのでしょう。

 

文章作成:QMS代表 井田修(2024918日更新)

 

 

ミンツバーグの組織論(3

 

(3)基本的な4形態~パーソナル型・プログラム型・プロフェッショナル型・プロジェクト型とは

 

次に、組織の基本的な4形態を説明します。パーソナル型、プログラム型、プロフェッショナル型、プロジェクト型、それぞれの基本構造や長所・短所などを著者が詳説します。

 

  パーソナル型組織

 

パーソナル型とは、個人が君臨する組織で、極めてシンプルな構図をもちます。すなわち、ひとりのマネージャーに複数のオペレーターやサポートスタッフがダイレクトにつきます。アナリストはいないことも珍しくはありません。ハブ型の組織構造を取り、組織で行われるはずの意思決定や戦略形成は、最高位者(ひとりのマネージャー)が単独で行うか、または最高位者を中心とする少数者で行われるので、状況に迅速に対応できるメリットがあります。

この場合のマネージャーは、一般にサイエンス志向よりもアート志向が強く、直感的で場当たりな的な行動が多くなりがちで、その人の世界観や個性が組織の戦略に強く反映されたものになりやすい傾向にあります。

一般に、パーソナル型組織はスタートアップや小規模な事業体に多く見られる形態です。そして、創業者が事業の立ち上げから拡大に成功し、相応の事業基盤を作り上げた後もそのまま最高位者(CEO)として組織全体のリーダーとなる場合は、組織もそのままパーソナル型で運営されることも珍しくはありません。また、経営危機に見舞われリストラやターンアラウンドに迫られた組織は、一時的にこのタイプの組織構造に変化して、戦略の焦点を絞り文化を再建することに臨むケースが多く見られます。

以下、パーソナル型組織の特徴をまとめてみます。

 

  マネージャーにビジョンが必要

  (ビジョンに欠けると場当たり的な対応に終始しがち)

  マネージャーが戦略を定めるだけでなく、その実行にも細部まで関与

  マネージャー個人の能力や資質に全面的に依存するため、その人がいなくなると組織が機能しなくなる虞が大きい

  マネージャー自身が事業の立ち上げ・拡大・再生などを実現すればするほど、その成功パターンから脱却できなくなりがちなため、戦略上の成功要因がそのまま失敗につながるリスクが大きい

  責任者(マネージャー)の後継者問題が特に不可避

  (同じ人物を育成できない、責任者が自分の後継者を育成する必要性を感じない)

 

この形態の組織は、政治機構などで運営されるとポピュリストを生み出し権力にしがみつかせる危惧がありますが、営利企業やNPONGOでは新たな事業を創造したり危機に陥った組織を再生したりするのに、一時的であっても必要不可欠な組織形態であることは間違いない、と著者は指摘します。

 

  プログラム型組織

 

プログラム型とは、工程が定められている機械のことを意味します。そうした機械のように組織を運営するのが、プロジェクト型組織です。

分業と専門化の原理に基づき、この組織の業務コアで実行される業務は、できる限りシンプルで、専門特化していて、反復性の高いものとなります。業務コアを担うオペレーターは最低限のトレーニング(時にはトレーニングなし)で業務を実行することが狙いなのです。

個々の業務(職種)は相互に独立していますが、つながりはあり、チェーン型の組織構造をとります。それぞれのチェーンに責任者(マネージャー)が少なくとも一人はおり、それらの責任者を統括する上位の責任者がいるなど、この組織形態は階層性をもつ傾向が極めて強くあります。

プログラム型組織は、分業と専門化で運営される業務コアだけでなく、その業務コアを設計するアナリストの存在もオペレーターと同様に重要です。この組織における分業と専門化は、業務を実行して成果を出す人(オペレーター)と物事を組み立てたり成果を監理したりする人(アナリスト)を分けて、それぞれ専門分化させます。

オペレーターを公式にマネジメントするのはライン・マネージャーですが、作業標準を定めたり成果測定を行ったりその結果から新たな作業標準や目標設定を行ったりするアナリストも、非公式にマネジメントの一部を担う存在であることは間違いありません。

また、オペレーターやアナリストがそれぞれの業務に集中して効率を向上させやすいように、それぞれにとってコアではない業務(人事、経理、法務、施設管理など)を専門的に担うサポートスタッフも必要となります。

プログラム型組織は基本的に、大量生産・大量サービスを目指すコストリーダーシップ戦略を採る組織に有効です。環境変化が小さくスケールメリットが効く状況であれば尚更、効果的といえます。

パーソナル型組織でスタートした組織が事業に成功し、時を経て規模が拡大し、創業者個人ではすべてを見切れないようになると、自然とプログラム型に変化していることは実によく見受けられます。また、安全性や確実性が強く求められる仕事、例えば、銀行業や航空業界などは、顧客の要望以上に監督官庁などの組織の外部からの圧力も強いものとなっているので、コントロールとルールに高い価値を置く組織となりがちです。

従って、この組織構造では、個々の業務(職種)の間の調整は、各種のルールや外部も含めたコントロールを通じて、業務の成果とプロセスの標準化が推し進められます。その特徴としては、ピラミッド型の階層と、秩序、コントロール、システム、ルールを好むといった傾向が顕著で、良くも悪くも官僚制と言えます。

より具体的にはプログラム型組織は次のような特徴があります。

 

  パーソナル型とは大きく異なり、組織の責任者(上はCEOから現場のマネージャーまで)が交代しても組織の機能は問題なく維持される

  秩序、コントロール、システム、ルールが強く存在するので、戦略が変わっても一人ひとりの仕事は容易には変わらないため、環境変化への対応が大幅に遅れがち

  業務コアを担うオペレーターが一人の人間として扱われず、機械や作業ラインとしてしか扱われない傾向が強い

  チェーン型の問題であるサイロとスラブの問題が不可避で、部署間の調整がつかず、最上位者にまで持ち上がってしまう

  一方、組織階層が上がるほど、問題から遠ざかり、下からの報告を待つスタイルになりがちなので、問題が発生してから責任者が認識するまでに無視できないタイムラグが生じてしまう

  マネージャーへの報告が定量的なデータに偏りがちで、定性的な情報に欠けており、問題解決への示唆やインサイトを得られない

  戦略(策定プロセスや策定された戦略の内容)までが標準化されてしまい、市場や顧客の違いや時間の経過による変化に適応できない

  結局のところ、官僚制のメリット(成果やプロセスの標準化、大量かつ正確かつ迅速な業務処理)がある半面、既述のようなデメリットも無視できない

 

 プログラム型組織と官僚制が不可分な関係にあるのであれば、プログラム型組織から脱却して21世紀にふさわしい組織構造を設計し運営すべきと思われる人たちも多いでしょう。組織論の専門家といわれる人々もそうしたアプローチであるべき組織を語りがちですが、著者はそうではありません。

 

プログラム型組織は組織づくりの「唯一で最善の方法」ではないのかもしれないが、組織づくりの重要な方法のひとつであることは間違いない。私たちが大量生産による安価な製品やサービスを求め続け、機械よりも人間のほうがそうした製品やサービスを効率的に提供できる状況が続く限り、プログラム型組織はなくならない。そして、このタイプの組織がもつ短所を受け入れるほかない。(本書130ページ)

 

プログラム型組織に問題があるのであれば、それを前提として組織の運営方法に工夫を凝らしたり、他の組織構造を組み合わせて短所を補い合ったりするのが、マネジメントとして求められるはずです。

ただ、AIやロボティックスの発展が、機械(システム)のほうが人間よりも大量生産による安価な製品やサービスを効率的に提供できる状況を生み出し始めているかもしれず、そこにプログラム型組織の限界が見えてきていると思うのは、紹介者だけではないでしょう。

 

  プロフェッショナル型組織

 

プロフェッショナル型とは、一定レベルの専門家としての知識や経験などを身につけた人たちを集めて、セットとして業務に当たる組織です。実際の業務に際して、マネージャーが現場で細部まで指示するまでもなく、それぞれの専門的な知見やスキルを活かして、専門家のセットとしてのチームが業務を処理します。

具体的には、医師や看護師などの医療専門スタッフから構成される病院などの医療サービス機関、弁護士や公認会計士や一級建築士など専門家ごとに組織するファーム(専門のサービスを提供する機構)、専門的な教育を行う機関(大学など)などです。

ここで言う専門家(プロフェッショナル)は、大学以上の専門分化した高等教育機関や職業団体などが行うトレーニングなどを通じて、組織の外からその職種の業務標準を持ち込むレベルにまで専門性を高めていることが必須となります。

彼らが所属する組織は、一見、職能別のプログラム型組織に見えたり、現場の業務ではハブ型の組織運営(一般にクライアントと呼ばれる問題を抱えた顧客を中心に、それぞれの専門家からなるチームが問題解決に当たるもの)のようにも見えたりします。情報の流れや調整という組織運営の本質は、それぞれの専門家が知識・経験・スキルなどに基づいて、(マネージャーの判断でもなく作業標準でもなく)自らの判断で意思決定を行うところにあり、それがこの組織形態の最大の特徴です。従って、現場での自律的な判断が求められるという点で最も分権化が進んでいる組織形態であるとも言えるのです。

その特徴をまとめてみましょう。

 

  オペレーター自身が高度な専門家であるため、誰もがオペレーターになれるわけではなく、高度な専門教育や職業教育を受けていることが必須

  個別の顧客(クライアント)に直接対応するので、オペレーターが外部とのコミュニケーションに自ら当たることになる

  ゼロから行うことはほぼないが、専門的なオプションを組み合わせる形でのカスタマイゼーションを行うのが常態化している

  あまりマネージャーの存在を必要としないので階層構造もあまり存在しない

  一般にアナリストはあまり必要ないが、サポートスタッフは一定程度必要

  時に過度な専門分化が蛸壺化を生じさせることもある

  専門家としての裁量の大きさが業務の成果やプロセスの評価を難しくしている面もある(第三者が事後的に評価することも難しい)

  法規制や業界団体の自主的な規制など外部からの圧力や干渉にたやすく左右される

  パーソナル型のように特定少数(個人)のマネージャーが組織全体のリーダーになるわけではない

  専門分野によって環境変化の程度が異なる故か、または専門家間の共通言語に欠けるためか、環境変化への対応が迅速にできるとは言い難い

 

  プロジェクト型組織

 

プロジェクト型とは、ある目的のために集められた人々が自然発生的に形成する組織です。プロジェクトと呼ばれる仕事のやり方では、単に自分の職種の仕事をこなすだけでなく、実践と学習を平行することで創発的に戦略が形成されることも期待されます。とりわけ高度なイノベーションを実現するためのチームを意味することが多いようです。

正にウェブ上の組織であり、チーム内部での相互の調整で業務が進みます。アナリストによる成果や作業標準の設定、予算統制などが困難であるため、このタイプの組織にはアナリストが果たすべき役割はあまりないのに対して、サポートスタッフは必要であるだけでなく、他の専門スタッフとともにプロジェクトメンバーの一員として、意思決定や調整に結びつきます。

製品にせよサービスにせよ、新たなものを開発しようとすれば、規模の大小はあっても、社内外の専門家がプロジェクトに参画し、対等の関係で業務を進める上で必要な組織形態としてこのタイプを位置づけることができます。

その特徴をまとめてみます。

 

  リーダーはいても特定の最高位者はいない

  従ってトップダウンのコントロールや一元的な指揮命令系統にかける

  戦略プランニングやマネージャーによる意思決定などにも欠ける

  作業標準や正式な手続きもない

  一人ひとりの役割が不明瞭で曖昧な状況に耐えられる人しかメンバーとして仕事ができない

  意思決定権限が分散されたり不明確なため、時には社内政治や個人的な駆け引きが優先されてしまう

  調整の時間や労力が掛かるからといって成果が必ず出るとも限らない

  作業効率が悪い

 

  パーソナル型・プログラム型・プロフェッショナル型・プロジェクト型の比較検討

 

以上、4種類の組織形態について説明しました。これらを戦略形成とマネジメントの2つの面から比較してみると、それぞれの違いをより理解することができます。

戦略形成の面で言えば、パーソナル型は最高位者のビジョンがそのまま戦略となる場合が多いでしょう。戦略はプランニング(計画立案)というよりもパースペクティブ(物事の見方・捉え方)となりがちです。

プログラム型では、既存の戦略パースペクティブが暗黙の前提となってしまい、戦略プランニングというよりも現状の戦略の延長線上の行動計画を戦略と混同しているケースがよく見られます。この場合、戦略実行の微調整を行い、それを反映させたポジションの増減を戦略形成と誤解しているのかもしれません。

プロフェッショナル型では、専門家それぞれが戦略上のポジションをとっているので、現場の試行錯誤のなかから新たなポジションが生まれることになります。

プロジェクト型では、トップダウンの戦略形成では開発の試行錯誤は実現できません。いわば雑草モデルと呼ぶべき、同時多発的な戦略の萌芽のなかから戦略の焦点が明らかになっていくプロセスを重視すべきです。

次にマネジメントの面で言えば、パーソナル型は最高位者が自らのビジョンを日常的な指示を通じて現実化するものなので、マイクロマネジメントになりがちな面があると同時に、最高位者の目が届かないところでは野放図なマネジメントともなり得ます。

プログラム型は、微調整を積み重ねるので最も安定したマネジメントとなります。しかし、例外的な事項が発生したり、計画とのずれが生じたりすることは避けられないので、分析のための分析、現場から遊離した分析、数値測定できないことをマネジメントの対象から除外してしまうこと、変化を認識しないこと、過度な自信などから、安定のための安定に走りがちです。

プロフェッショナル型は、マネージャーの仕事は専門家の監督ではなく支援なので、内部的には専門家内部や異なる専門家の間の利害対立を調整します。その一方、対外的には組織全体を代表して利害を主張し、外部関係者と交渉して組織全体の利益を図ることが求められます。

プロジェクト型は、一人のマネージャーがマネジメントを担うわけではなく、プロジェクトメンバーが現場で判断するので、意思決定が分散しているのが最大の特徴です。マネージャーは指示命令するのではなく放任するのでもなく、メンバーの意思決定に関与して、意思決定者にヒントを与える役割に徹することが求められます。

 

 パーソナル型・プログラム型・プロフェッショナル型・プロジェクト型という組織の4類型を紹介してきましたが、これらはいずれも理念的な存在で、実際の組織運営ではいくつかの形態をミックスしてマネジメントに当たることになります。

リストラに迫られた外食産業であれば、経営チームはパーソナル型を取りながら、ターンアラウンド・マネージャー(CEOまたは全権委任的な上級執行役員)のもとでリストラの計画を立てて実施していく実働部隊はプロジェクト型またはプロフェッショナル型となり、リストラ中でも通常通り顧客にサービスを提供しなければならない店舗や工場はプログラム型で運営されなければなりません。また、リストラだけに注力するのではなく、新業態開発のプロジェクトにも取り組む必要があるとすれば、こちらは文字通り、プロジェクト型の組織として運営されなければならないでしょう。

このように、ひとつの企業でもいくつかの組織モデルを併用しなければならないことが常態化しているのかもしれません。

 

文章作成:QMS代表 井田修(2024926日更新)

 

 

ミンツバーグの組織論(4

 

(4)組織に作用する力と発展した組織形態

 

組織は、基本的な4形態に留まるものではありません。著者によれば、基本的な4形態に作用する力が主に7つあり、それらの力を受けて組織は基本的な4形態から発展した3形態(事業部型、コミュニティシップ型、政治アリーナ型)を取ると述べられます。

 

  4形態と4つの力

 

パーソナル型・プログラム型・プロフェッショナル型・プロジェクト型という組織の基本的な4形態には、「統合」「効率」「熟達」「協同」という4つの力が作用します。

「統合」は、パーソナル型の組織で最も明確に現れます。パーソナル型では最高位者に権力が集中しているため、他のメンバーは組織に統合されざるを得ません。一方、平常時のプログラム型の組織では、システムが統合の機能を果たすことになります。またプロフェッショナル型では、専門職が独立して自律的に動くので、統合はそもそもあまり必要ではありません。

「効率」は、プログラム型の組織に典型的に見られます。反対に最も効率を志向しない(できない)のがプロジェクト型の組織です。ほかの二つの組織形態では、効率を重視するマネジメントやアナリストの存在が、最高位者や専門職との対立を生じさせかねない危惧があります。

「熟達」は、プロフェッショナル型の組織で最も強く求められる力です。最高の成果を生み出すには、専門家からなるチームとそのメンバー個々の熟達した技と知見が必要なので、当然、作用するのが熟達です。プログラム型では熟達は多少なりとも必要ですが、そもそもシステムとオペレーターへのトレーニングが熟達を補完するはずのものです。

「協同」は、プロジェクト型の組織で最も重視されます。特にイノベーションを実現するのに不可欠な力です。もちろん、他の組織形態でも不要というわけではありませんが、パーソナル型では「協同」よりも「統合」、プログラム型では「協同」よりも「効率」、プロフェッショナル型では「協同」よりも「熟達」が優先されます。

 

  触媒のような3つの力

 

これらの4つの力に加えて「上からの分離」「文化の注入」「対立の浸食」という3つの力が組織に加わり、いわば触媒のように組織に変化をもたらします。

 

「上からの分離」とは、分業と協業の原理に基づく組織作りのことです。言い換えると、分権化と専門化及び意思決定と調整を進めることです。組織が大きくなり、いくつもの異なる市場や技術分野で事業を行っていくほど、この力も大きくなるのは必然でしょう。より現場に近いところで物事を決めて行かなければ仕事が進まない半面、上と現場が完全にバラバラになっても事業はうまくいきません。そこで、計画とコントロール、調整、成果の標準化などが必要となります

パーソナル型ではこの力が小さいこともあります。プログラム型では、もともと上(組織上の最高位者)から分離してチェーンとなっていることが多いので、組織が大きくなるほどこの傾向が強まり、最も顕著に見受けられます。プロジェクト型でも、もともと分離していることがよく見られるのとは反対に、最高位者が直轄するプロジェクト型組織というのもあって「上からの分離」は一律に作用する力というわけではないことがわかります。

 

「文化の注入」は、組織内の人々を同じ方向に引き寄せる力です。通常、以下の3段階を経て形成されます。第1段階は、しばしばカリスマ性のあるリーダーを中心に、強い使命感とともに文化の土台が築かれる段階です。特に創業時や経営危機の際にはっきりと見られるもので、パーソナル型組織と適合的です。第2段階は、先例やストーリーを通じて、新しい考え方が拡散される段階です。先例が確立され、伝統ができていきます。個々のストーリーからサガ(叙事詩)の体系が成立するとも言えます。この段階で、リーダーやマネジメントの個人的な価値観から組織として持つ文化(制度)になるのです。第3段階が、帰属意識と社会化を通じて文化が強化される段階です。社会化や教化のプロセスを通じて、既存のメンバーだけでなく、新規のメンバーにも伝統やサガが共有されるようになります。

プログラム型では「文化の注入」よりも、作業標準、システム、ルール、数値目標といった公式化された仕組みで人々を同じ方向に向かわせようとします。一方、プロフェッショナル型では、組織への帰属よりも、職業(職種)への帰属や個人の価値観が優先されがちです。とはいえ、中にはより強力な文化ができ上って、それが他社との違いとして競争力の源泉になるプロフェッショナル型組織も実在します。同様の傾向はプロジェクト型でも見られるので、この力が組織の文脈のどこでどのように作用したのか、歴史的な背景を理解することが重要となります。

 

「対立の浸食」は「文化の注入」とは反対に、組織内の人と人、部署と部署を引き離す力です。どのような組織でもその内部で何らかの意見の対立(=深刻な不一致)が生じると、政治的な駆け引き(ゲーム)で対立の解消に向かう場合が出てきます。

この政治的なゲームは、著者によると13種類あります。反乱、反乱鎮圧、後ろ盾、同盟作り、帝国作り、予算獲得、専門性、君臨、ライン対スタッフ、陣営間対立、戦略選択、内部告発、体制転覆です。いずれも、正規の権力機構(組織と権限)の存在を前提に、その力を正規に行使(濫用)するのか、影響力を行使するのか、対立し無効化しようとするのか、という政治的な駆け引きが行われることになります。

パーソナル型の組織では、対立が起きにくいでしょう。もし起きても、対立が明確化したり、対立の解消に向けて政治的な駆け引きを行ったりする前に、正規の権限を最高位者が行使して対立を解消させることができます。自分に反対する者を馘にすることもできるはずです。

最も対立が生じやすいのはプログラム型です。分業と専門分化が最も徹底される以上、職種や部署の間、現場とスタッフとの間、マネージャーとアナリストとオペレーターの相互の間など、どの関係でも対立は不可避です。実際、サイロやスラブが常態化し派閥を生じさせるのが、プログラム型なのです。予算獲得、専門性、ライン対スタッフ、陣営間対立などは程度の差はあれども、どこにでも見られるでしょう。時には、同盟作り、帝国作り、内部告発、体制転覆といったゲームに至ることも珍しくはないでしょう。

プロフェッショナル型やプロジェクト型では、権限のシステムが比較的弱く専門性のシステムが強いため、組織内で権力が分散する傾向が強いのです。対立よりも、文化の注入が欠けて組織としてのまとまりが失われるほうが危惧されます。

こうした対立や政治的なゲームは、組織にとって必ずしもマイナスとは言い切れない面もあります。この行動の中から、最も実力のあるメンバーがリーダーとして認知される契機となることもあれば、正規の権力機構では解決されない課題や問題の側面を明らかにすることもあるからです。組織が人間の集まりである以上、正規の機構や調整メカニズムがいかに公式化されたとしても、それらだけでは物事は進まないのです。

 

  3つの組織形態

 

4形態に作用する4つの力、すなわち「統合」「効率」「熟達」「協同」、及び「上からの分離」「文化の注入」「対立の浸食」という3つの力を受けて、組織は基本的な4形態から、「事業部型」「コミュニティシップ型」「政治的アリーナ型」の3形態を出現させることがよくあります。

 

「事業部型」は一般に、垂直統合(事業活動のチェーンを伸ばすこと、川上や川下に進出すること)、副産物による多角化(中間製品の販売や余剰資産の有効活用など)、関連製品による多角化(副産物が主要な製品やサービスに匹敵する重要性をもつ)、コングロマリットによる多角化(事業部ごとに扱う製品やサービスが完全に別のもの)という4つのステージを経て、より本格的な事業部制に移行します。更に、顧客や地域を多角化する場合が加わります。つまり、「事業部型」は「上からの分離」と「統合」という二つの力のバランスを受けて形成されます。

個々の事業部は、他の事業部から独立しており、本社部門からも一定の独立性をもっています。本社のアナリストたちは基本的に成果によるコントロールを行いますが、事業部のポートフォリオ管理(特に事業部の分離・閉鎖・売却など)、事業部のマネージャー(最高位者)の任免、事業部への予算配分、各事業部への本社サポートサービスの提供などは、本社が決定し実行するものです。

理論的には、「事業部型」は基本的な組織形態すべてに適用可能ですが、現実的にはプログラム型組織との相性が良いでしょう。他の形態が混在する場合には、プログラム型組織ではない事業部は本社CEOの直轄とするなど、本社のアナリストのコントロールから外して、秩序やルールを重視する文化からも遠ざけるほうが、成果を出しやすいようです。

事業部が違うと利益構造も文化も違うので、同一の視点で見ることができるのは財務指標になりがちです。そのため、仕事の質を見るよりも効率を見てしまいます。効率を向上させるといっても、コスト、特に経済的なコストを削減して効率を高める方向にばかり、本社の最高位者(CEO)やアナリストの目が行きがちです。

その結果、事業部横並びの財務重視の数値目標、その結果を追及する業績評価、単一事業に比べて低い利益率、CEOではなくゼネラル・マネージャーに責任を負わせがちなど、コングロマリットの弊害や失敗については枚挙に暇がないほど指摘されてきました。

しかし、メリットにも目を向けるべきです。例えば、資本の効率的配分、ゼネラル・マネージャーの育成、リスクの分散、戦略的機敏性といったものは、「事業部型」の組織形態の長所として指摘できます。

なお、この形態は営利企業にのみ見られるものではありません。政府機構やNGO、慈善団体や財団なども多角的な組織形態をとっているものは、「事業部型」の形態を取っています。特に政府機構や国際機関は典型的で、提供するサービスの対象や内容が全く異なるコングロマリットの形態をとっているものが多いのです。現実には、なかなかうまくは運営されない実例となっています。

 

「コミュニティシップ型」は、「文化の注入」が最も強く表れている形態です。この形態の特徴は、組織内における調整のメカニズムとして規範の標準化に強く依存する点にあります。メンバーは、ルールよりも言葉に従います。

組織内で共有されている信念や信奉するイデオロギーがもつ力が強いので、最高位者はいても、その一存で組織が機能するわけではありません。といって、分業やシステム、組織の階層や構造、ポジションや果たすべき役割、手続きやルールといったものもないため、プログラム型のように機能するわけでもありません。メンバーひとりひとりが尊重されるので、最も分権的と言えますが、プロフェッショナル型のような専門性や熟達はあまり見られず、何らかのプロジェクトを進めているわけでもありません。

この形態では、組織として保有する資産、意思決定、活動などを、メンバーひとりひとりが同じウエイトで担うことになります。従って、一人のマネージャーが全てを決定するのではなく、共有財産制や輪番制といった手法が一般には採られます。メンバーとして新たに加入するには、候補者の慎重な選択、長期的な学習と実践行動を通じた教化、候補者の強い参加意識などが不可欠です。

規模が小さいほど、コミュニティが効果的に機能しやすいので、ひとつの組織が一方的に大きくなるというよりも、ある程度の規模のグループが分裂して拡大していきます。「事業部型」のように本社や中央の管理セクターから独立するのではなく、既存の組織をコピーし分裂して組織体の数が増えるのです。ひとつひとつの組織体には、適正な規模があるように思われます。

「コミュニティシップ型」は大別して、改革型・改宗型・隠遁型の3種類があります。改革型は、ある目標の実現に向けて直接世界を変えようとするもので、気候変動や環境保護などを目指す団体などに見られます。改宗型は、メンバーの意識や行動を変えようとするもので、アルコールや薬物への依存を断ち切ろうとする団体などです。隠遁型は、自分たちを世界から切り離そうとするもので、最も閉鎖性が強いでしょう。

ここでは対立は規範のありかたを巡って進むので、先鋭化し、どちらがより純化しているかを問いがちです。言葉の解釈ということになると、対立の優劣を決める尺度が原理的にありません。組織の内部で何らかの対立が生じると、部分的には「対立の浸食」で見たような政治的なゲームも行われますが、「文化の注入」が極限にまで進むことは避けられず、組織の分解や消滅に至ることもしばしば起こります。集団の分裂や離合集散が起こりやすいのも特徴でしょう。

 

「政治アリーナ型」というのは、組織内部での対立が激しく収拾がつかない状況で見られる組織形態です。組織の至るところで政治的なゲームが行われ、正式な権限は取り除かれたり、一時的に機能しなくなったりしている状態です。従って、この形態には構造がありません。調整のメカニズムも働きません。だから対立が収拾のつかないレベルにまで達しているのです。形態というよりも、移行過程と見る方が正しいのかもしれません。

この形態は、既存の権力秩序が既に役立たないにも関わらず、未だに存在している場合に、その体制を取り除く可能性が出てきます。また、機能不全に陥っている組織(例えば社内外の関係者の圧力に晒されて当事者能力を失っている規制業種の業績不振企業)をより早く崩壊させることができるかもしれません。そういう点に存在意義があるというならば、組織崩壊を促す組織形態(過程)ということになります。

 

文章作成:QMS代表 井田修(2024106日更新)

 

 

ミンツバーグの組織論(5

 

(5)組織のライフサイクル・モデルと死

 

一度生まれた組織は、ひとつの方向に成長・拡大していくとは限りません。著者によれば、全ての組織が同じように辿るわけではないものの、一般に組織構造には次のようなライフサイクル・モデルがあります。

 

誕生

スタートアップとして生まれ、パーソナル型の形態を取ります。

 

青春

創設者が組織に留まる限りは、パーソナル型の性格を部分的であってももち続けるでしょう。

 

成熟

組織は、それを取り巻く環境に適合する自然な組織形態に落ち着きます。このプロセスでは、パーソナル型から他の形態に転換していくのが一般的でしょう。

 

中年

成熟した組織が突然の転換により安定が崩れます。この転換は、内部から生じること(多角化が進み事業部型になるなど)もあれば、影響力を有する外部勢力によって押し付けられること(株式公開により効率が重視されるようになり本社スタッフの力が強いプログラム型組織になるなど)もあります。事業環境の変化により突き動かされることもあります。

 

老い

停滞期に入った組織は、他の組織構造に移行することで再生することがあります。一人のリーダーに権限を集中させてプログラム型組織を立て直す一時的な再生もあれば、官僚的な組織にアドホクラシーの要素を取り入れて恒久的な転換を図ることもあるでしょう。

特に多いのは、大規模で停滞しているプログラム型組織を、アジャイルでイノベーティブな組織に刷新しようとするものです。そのためには、職務範囲の拡張・従業員へのエンパワーメント・スキルの増強の3ステップを経て、従業員の熟達度を向上させてプロフェッショナル型に転換していくことになるか、または、最高位者を代えて一時的にパーソナル型に転換し、新たな経営者のリーダーシップに組織の立て直しを委ねることになります。

こうした場合、実務レベル(現場の改善など)・戦略レベル(新たなパースペクティブの導入、製品ラインの刷新、ポジションの変更など)・文化レベル(本来もっていた価値観や目的の再発見など)において、変革を実行することになります。

 

資金が尽きるといった事由により組織は自然死を迎えます。現在の日本では、後継者不在のまま経営者の死が生じると組織も同様になる例も少なくないようです。

規模が大きい組織ほど、政治的アリーナの形態を経なければ崩壊しないこともよく見られます。政治や規制当局などの力で生命維持装置をつけたとしても、結局のところ、死を多少先延ばしにするだけです。

 

 本質的に死を免れるには、遅くとも老いの段階までに組織の構造や形態を大きく転換して再生のプロセスを経験するほかありません。なかには、老いの段階に至る前に、一方向に暴走したり、複数の力の間で矛盾が生じたまま調整・克服・解消などが行われずに、組織が機能しなくなったり分裂したりすることもあります。

そもそも現実の組織は、基本的な4形態や発展したものを含めた7形態に止まりません。いわばハイブリッド型の組織となるのが通例です。ちなみに、ハイブリッド型組織には2種類あります。ひとつはブレンド型、もうひとつは寄せ集め型です。

ブレンド型のハイブリッド組織というのは、「組織全体で複数の組織形態の性格が混ざりあっている」ものです。よく見られるのは、個人のリーダーシップ次第のパーソナル型と他の強力な要素が融合したものでしょう。

スティーブ・ジョブズに率いられていたころのアップルは、極めて強い意志をもった個人的なリーダーシップと多くのプロジェクトの要素がブレンドされていました。また、原子力発電所や警察機構など、安全を守るために高度な信頼性が求められる組織では、専門職がしっかりとした訓練に基づいた専門性を発揮することと、機械のように厳格なルールを徹底させることがブレンドされる必要がありますから、プロフェッショナル型とプログラム型がブレンドされた組織となります。

寄せ集め型のハイブリッド組織というのは、「組織内のさまざまな部門や部署が異なる組織形態を採用している」ものをいいます。

例えば、大手銀行では個人顧客向けのリテール部門ではプログラム型組織を、投資銀行部門では個々の顧客のニーズに応じてプロジェクト型組織を、それぞれ運営していることが多いでしょう。製薬会社では、研究部門はプロジェクト型、開発部門はプロフェッショナル型、製造部門は高度に自動化されていない限りプログラム型であることが一般的です。

こうしたハイブリッド型組織では、組織間に生じる汚染と裂け目という二つの問題に直面しがちです。

汚染というのは、別の組織形態をとる社内の別の組織から、ある組織が同調を強いられる現象です。一般の製造業でよくあるプログラム型組織において、プロジェクト型で運営されるべき研究所や新規事業開発部門などが、ルール・手続き・予算などに縛られて機能しなくなるのは、実によくあることです。

裂け目というのは、異なる形態の組織の間で十分な協力が起こらず、相互の調整が進まないほどに部門間・部署間の競争や対立が生じてしまう現象です。これもよく見られるもので、プログラム型組織ではオペレーターの組織の間(営業と製造など)でもあれば、アナリスト(本社の企画部門や生産管理部門など)とオペレーター、サポートスタッフ(人事や経理など)と他部門などで典型的に生じやすいものです。

また、パーソナル型から発展したプログラム型組織では、経営層と他の階層や部門も対立することがあります。プログラム型組織とプロジェクト型組織では、効率や目標といったものへの価値観が違い過ぎて、互いに相容れない関係に陥ってしまうこともあります。

本来、ハイブリッド型の組織では、この汚染と裂け目の二つの方向に組織が暴走しないようにする錨が必要です。そして、組織全体として汚染と裂け目をどのようにコントロールできるかで、その組織がどの程度、有効に機能しているかが決まります。

組織のライフサイクル・モデルに照らせば、汚染と裂け目のような組織が抱える矛盾が暴走してしまうと、老いを迎える前に組織に死が訪れても不思議はありません。

 

文章作成:QMS代表 井田修(20241015日更新)

 

 

ミンツバーグの組織論(6

 

(6)境界の曖昧さと組織デザイン

 

組織から外へ、外から組織へと流動的な形態も多く見られるようになっている現代の組織の課題として、本書は組織と外界との境界について考察を進めます。

20世紀までの組織が組織の内と外を分ける境界をより強く確立するものだったのに対して、21世紀は内も外もネットワークでつながることで、境界を崩し、組織が外へと発展する方向に変化していることは、誰しも認めることでしょう。言い換えると、経営資源の囲い込みやバリューチェーンの拡大を通じて巨大化する組織から,外部資源とのつながりや組織間での経営資源の相互活用を重視する組織に変わってきているのです。

そこで著者は、外へと向かう組織の手法として6つを指摘します。すなわち、外へ延びるネットワーク、契約によるアウトソーシング、提携による合弁事業、部外者を参加させるプラットフォーム、共通の目的に向けた「合同」、テーブルを囲む寄り合い、というものです。

「外へ延びるネットワーク」は、公式化される必要はなく、自然発生的に行われます。ネットワーキングそのものが組織の内部でも外部でも昔から行われてきたものです。取引相手や納入業者との交流、地域コミュニティとそこにある企業との交流イベントなど、例を挙げれば限がありません。

昔との最大の違いは、SNSの登場により個人のネットワークづくりの範囲が飛躍的に大きく広がったことです。人があれば、ネットワークも気がつけば世界中に延びているのです。

「契約によるアウトソーシング」は、従来は組織内で行っていた活動を契約により外部の組織や個人に発注するものです。一度アウトソーシングを始めると、組織の境界線は曖昧になり始めます。建設業界でのサブコントラクター、オフィスの清掃業務、人材採用などが例示できます。

著者が指摘しているわけではありませんが、日本ではすべてをアウトソーシングと一括りに称するわけではなく、外注や業務委託という形態もあります。また、社外取締役というのも、企業経営を委任契約により社外に委ねるアウトソーシングであるとも言えます。

契約によるアウトソーシングの肝は、自社のコア・コンピタンスを見極めることです。これはアウトソーシング全般について言えることですが、自社の競争力を左右するのは、どのような組織能力なのか、一方コアとは言えない組織能力は何なのか、的確に判断することがマネジメントに不可欠です。

「提携による合弁事業」は、独立した組織同士が一時的に提携してジョイントベンチャー(合弁事業)を組成して、特定の製品・サービスの開発・生産・販売などを行うものです。行政や非営利団体が参画するパートナーシップもこの形態のひとつです。

「部外者を参加させるプラットフォーム」は、アウトソーシングの裏返し(インソーシング)で、組織がプラットフォームの形を取り、部外者にそのプラットフォームを利用させます。典型的な例はウィキペディアです。また、オープンソースのコード開発も同様です。

この組織の特徴として、次の4点が指摘されています。

 

  メンバーとメンバー以外の境界線が流動的で非公式

  ボランティア労働を大々的に取り入れている

  情報に基づくプロダクトを提供している

  知識の共有が大掛かりに実行されている

 

著者はウーバーを例に、この形態とアウトソーシングの違いをコメントしていますが、ウーバーはプラットフォームを主張するのに対して、著者はドライバーをアウトソーシングしたタクシー会社にしか思えないと述べています。上の特徴を鑑みると、ウーバーについては著者の主張のほうが妥当でしょう。

 「共通の目的に向けた『合同』」は、いくつかの組織が一緒になって自分たちのために共通の機能を実現することを目指す「インサービス」のひとつです。プラットフォームと似ているようでも、特定の組織が全てを取り仕切るわけではなく、既に誰かが用意したプラットフォームを利用するだけでもなく、参画する組織が自らメンバーとしてプラットフォームを作り利用するところに違いがあります。

「テーブルを囲む寄り合い」は、決まったメンバーが共通の関心事のために集まる形態です。コンソーシアム、チェンバー、アライアンス、アセンブリーなど呼び方は様々ありますが、共通の関心事について定期的に集まって、話し合ったりロビー活動を行ったりするものです。日本には業界団体や企業グループが伝統的に存在しますが、業界団体や企業グループもテーブルを囲む寄り合いの一種でしょう。

組織の境界が曖昧になるに従って、組織の形態も新たなものが必要となるでしょう。そのデザインを行うプロセスを開放することで、既存の類型を超える組織の形態を探求するように、本書は最後に要請します。このプロセスは、著者にとっては楽しみであるかもしれません。人間と同じく組織も同じものは二つとないことを改めて指摘した上で、行動としての組織デザインを通じて、マネジメントとして実際に組織をデザインしていくことを求めます。

言い換えると、マネジメントに携わる者は、本書で記述される組織形態の基本的な類型や現代における方向性などに留意して、組織の大小や構成メンバーの数や質の違いはあってもマネジメントすべき組織をどのように構築し運営するのか、自らデザインすることが仕事なのです。

この仕事=組織デザイン=に示唆を与える者として横山禎徳氏を挙げていますが、その著作はこちらに紹介しています。実際に組織デザインを進める上で留意すべきポイントを整理しています。本書とセットで組織デザインのガイドブックとなるでしょう。

 

本書全体を通じて強く感じることが二つあります。

ひとつは、組織を考える上での文脈の重要性についてです。例えば、著者は、プログラム型組織におけるオペレーターは、一種の人間疎外に置かれているように描いていますが、この課題はTQMや改善活動などでクリアできるのではないかと感じるところです。欧米式の人間観や労働観に基づくマネジメント、更に言えば、階級社会の残滓が強い社会(それが世界の大半かもしれませんが)における組織のありかたが、著者にとって暗黙の前提となっているように思われます。

この文脈で言えば、日本も相当程度に欧米化してきているとはいうものの、依然としてそうではない要素も強く残っている社会である点を考える必要があります。ここからジョブ型ではなくメンバーシップ型の人事が行われているという主張が意味を持つはずです。

もうひとつ強く感じるのは、著者にとって組織形態を考察することは、きっと官僚制の弊害と闘うことと同義なのだろうということです。実際、ページ数で見れば、本書はプログラム型組織を官僚制から脱却させるかを問うものと言っても構わないでしょう。確かに、大規模な組織ほど官僚制の弊害から脱却できない現実は、世界中に看て取れます。この問題意識は著者と共有できるものではあります。

そして、ダメな組織は死を迎えるのみ、賞味期限切れの組織を維持するほうこそコストがかかる、という著者の主張は明快です。こうした発想はなかなか日本では理解されないし、理屈ではわかっていても実行するとなると反対ばかり、というのが現実でしょう。現代の日本という文脈において本書が論じる最も重要なポイントは、正にここなのです。

 

文章作成:QMS代表 井田修(20241020日更新)